今後スマホのレビューもしていこうと思っている中で、やっぱり性能を示すための一つの指標としてベンチマーク測定はやりたいなと思っている次第。スマホのベンチマーク測定と言えば「Geekbench」と「AnTuTu Benchmark」の2つがありますが、そのうち今回は「Geekbench」を取り上げます。
いろいろなブログで当たり前のように用いられていますが、いざ自分が使うとなると「どうやってダウンロードするの?」「どうやって使うの?」「そもそも合法に使えるものなの?」「指標の見方は?」等々…想像以上に懸念点が多いことに気づきました。安心して使い始めることができるよう、事前にいろいろと調査してみましたので、そこで得た情報を共有します。
Geekbench(ギークベンチ)とは、そもそもどんなソフト?
そもそもの「Geekbenchとは?」というところですが、カナダ トロントのソフトウェア企業「Primate Labs」からリリースされているソフトのようです。Google Playストアでは100万件以上ダウンロードされており、評価は★3.8となっています。分かっていたことではありますが、決して怪しいものという訳ではなさそう。
用途としてはもちろんデバイスのパフォーマンス測定で、現行バージョンは2023年2月リリースの「Geekbench 6」となっています。従来の「Geekbench 5」とはスコアの算出方法が変わっている様子。そのため同じGeenbenchのスコアだったとしても、バージョンが違う場合には比較に使えないため注意しなければなりません。
Ver.5で測定した結果が「3000」だった機種と、Ver.6で測定した結果が「3000」の機種では、性能が同じとはならない、ということです。
Geekbench6の導入・インストール方法
Geekbenchはクロスプラットフォームアプリとなっており、Android、iPhone(iOS)といったスマホはもちろんのこと、WindowsやmacOS、Linuxといったパソコン用のOS上でも動作させることができます。PC版は公式Webサイトから、スマホ版はGoogle Playストア/Appleストアでそれぞれ入手可能です。
ベンチ測定自体は無料で行うことができますが、測定結果を共有サイト(Geekbench browser)へ自動投稿することが条件となっています。自分の測定した結果はローカル上だけに保存しておきたいという場合には、有料版(Pro)を購入しなければなりません。ベンチマークテストの自動化等の付加機能が付いて、2024年5月現在$99(約15,500円)です。
Geekbench6で測定できる項目とそれぞれの意味
Geekbench 6を利用することで測定できる項目は大きく以下のとおり。
- CPUのシングルコアのスコア
※複数あるコアのうち一つ一つをピックアップして測定したもの - CPUのマルチコアのスコア
※複数あるコアのすべてに負荷をかけて測定したもの - GPUのスコア
CPU面に関しては、コア(スマホの頭脳)一つ当たりのパフォーマンスと、コア全体のパフォーマンスの2種類を測定可能。あとはグラフィック性能の指標となるGPU面のスコアを含めた計3項目です。
それぞれのスコアは、大まかに以下のように読み取ることができます。
- CPUシングルコアのスコア
→少数のコアに負荷が集中するような使い方の時に有利。Officeソフトを使うビジネスシーン、ゲームプレイ時等。 - CPUのマルチコアのスコア
→すべてのコアがまんべんなく負荷を請け負うような作業を行うときに有利。動画編集・書き出し、配信、AI処理、画像レンダリング等。 - GPUのスコア
→画像や映像をスムーズに表示することができる。3Dグラフィックを多用するゲーム、高画質動画の再生等に有利。
簡潔にまとめると、ゲーミングユースならシングルコアやGPUのスコアを重視し、マルチタスクのクリエイティブユースではマルチコアを重視する、といった形になるでしょうか。テキストのやり取りといった比較的ライトな使い方であれば、シングルコアのスコアさえそれなりにあれば困ることはないのではと思います。
Geekbench6を実際に利用してみる(CPU編)
Geekbenchというソフトがどういうものなのか・どういった項目を測定できるのかが大体分かったので、実際にスマホに落として利用してみました。今回測定を行なった機種はGalaxy Z Fold3です。
Android版Geekbench 6を開いた画面がこちら。CPU・GPUの2つのタブがありますが、最初はCPUの方が選択されています。下部の「Run CPU Benchmark」を押下するだけで測定が開始されるという、単純明解なUI。
測定ボタンをタップするとこのような画面が表示され、あらかじめ組み込まれたパフォーマンス測定用の処理が内部で走り始めます。100%になるまで何か別画面が表示されることはなく、このまま待機。この時は5分程度かかりました。
測定結果がこちら。シングルコアスコアが「1576」、マルチコアスコアが「3965」となっていました。
Resultタブをより詳しく見ていきます。スコアの下には、測定に使用した機器の情報が記載されていました。製品のOSバージョンやモデル番号、搭載しているCPUとそのコア数等を確認できます。
さらに下へ行くと、シングルコアスコア算出の基となった内部処理一つ一つののスコアを見ることができます。最終的に導出されるシングルコアスコアは、これら処理の点数の平均になっているのでしょうかね。
さらに下へスクロールした様子。マルチコアスコアについても同様に、各処理ごとのスコアを確認することができます。
続いて「Result」→「Single-Core」を選択してタブを移動すると、他のAndroid機種のシングルコアスコアとの比較ができます。同スコア帯の機種が無作為にピックアップされているのでしょうか。ここでは2023年フラッグシップのGalaxy S23 Ultra(8 Gen 2)が「1886」でトップとなっていました。
測定機の後継に当たるGalaxy Z Fold4のシングルスコアは「1675」と、その差は100程度。わずかながら順当にスペックアップしている様子がうかがえます。Z Fold3は2021年発売の機種ですが、2022年発売のGoogle Pixel 7 Pro(1412)やGalaxy S22(1392)といった機種よりはまだ高性能なようでした。
「Single-Core」→「Multi-Core」タブへ移動した様子。シングルコアと同様に、同スコア帯機種と測定結果の比較ができます。こうしてみると、2023年のGalaxy S23シリーズのスコアの高さが際立ちます。通常の800番台と現行の8gen世代には大きな差があるようです。
Geekbench6を実際に利用してみる(GPU編)
続いてGPUの測定です。測定機種はCPUと同じくGalaxy Z Fold3。Geekbenchホーム画面から「GPU」タブを選択していきます。
CPUの時とは違い、測定ボタン上に何やら「API」の選択項目が。「OpenCL」と「Vulkan」の2種類がありますが、より新しく開発されたものは後者。Vulkan APIを利用した方がGPUの持つ性能を発揮させやすく、測定結果もより高いスコアが出る…と解釈したのですが、この辺りはかなり複雑で完全には理解できませんでした。。
まずはGPU APIを「OpenCL」に選択した状態で「Run GPU Benchmark」を押下。CPUパフォーマンス測定の時と同じような画面が表示され、内部処理が走り出します。こちらは所要時間約3分ほど。
測定結果は「4540」となりました。スコア下部に表示される「System Information」はほぼCPU測定時と同様。
さらに下へスクロールすると「OpenCL Performance」がありました。各処理ごとのGPUスコアが確認可能です。
続いて「Result」→「GPU」へとタブを移動した様子。例によって他機種のGPUスコアとの比較ができるようになっています。ここでもGalaxy S23 Ultra(8 Gen 2)がトップで「8813」。Z Fold3のグラフィック性能とは2倍近い差があるようです。この比較ページには機種名のほか搭載するチップ名も併記されているので、各CPUによってどの程度の差があるのかを視覚的に判断出来るのがいいなと感じました。
今度は、GPU APIを「Vulkan」に設定して同様のGPU測定を行なってみました。所要時間は約5分と、先ほどよりやや長くなった形に。測定結果は「5306」で、OpenCLのスコアと比べて12%ほど高い数値となっていました。
比較ページ(「GPU」タブ)で他機種を見てみると、先ほど上位にあったGalaxy S23 Ultraがやや落ち込んでいるといった違いも。変わりに、調査対象機種の後継であるGalaxy Z Fold4がトップに躍り出ていました。Z FoldシリーズはVulkan APIでパフォーマンスを発揮しやすい傾向にあるのでしょうか…。
何にせよOpenCLとVulkanで違ったスコアが算出される以上、単純なパフォーマンス比較をしたいのであれば「測定に利用するAPIは揃えなければならない」ということを忘れないようにしたいですね。
Geekbench6を使ってみての感想
Geekbenchはワンクリックすると裏で処理が走るというシステム上「体感としてどうなの?」というのが分かりづらいなと感じました。ベンチ測定ソフトとしてもう一つよく使われている「AnTuTu Benchmark」では測定中にスコア算出用の映像が流れ、そこで大まかなカクつき具合等を見ることができます。測定によって実際の使用感を想像しやすいという面では、AnTuTuに軍配が上がりそう。
またGeekbench 6はシングルスコア「2500」を基準としており、これより高いか低いかである程度スペックの良し悪しを推測することができるようです。しかしこのスコアのもととなっているCPUはPC用の「Core i7-12700(Dell Precision 3460)」と比較的ハイスペックであるうえ、そもそもパソコン用CPUが基準となっていることから、スマホのパフォーマンス測定として「スコアがいくらあればいい」といった使い方はしづらいと感じました。
Geekbenchは、あくまで「以前使っていた機種より性能が上がっているかな」「同価格帯のあの機種と比べたらどっちが高スコアなんだろう」といった比較用途に向いているソフトなのではないかなと思います。
Geekbench6に関する参考文献
今回Geekbenchの調査をするにあたり、主に以下サイト・ページを参考にさせていただきました。
- Geekbench6の内部マニュアル
→Geek bench 6 Internals - Geekbench 6の内部マニュアルを日本語訳したもの
→Geekbench 6 Benchmark Internalsの日本語訳 - Geekbench公式サイト
→Geekbench|Introducing Geekbench 6
ワンタップでCPU・GPUスコアを測定できる「Geekbench」。便利だが用途に合わせて使い分けたい
Geekbenchに関する各種調査を行い、実際に使ってみた感想としては「ボタンをワンタップするだけで自動でパフォーマンスを測定してくれるのが非常に便利」だということ。UIが非常にシンプルなので、アプリをインストールするだけで誰でも気軽にベンチ測定ができるのはGeekbenchの大きな魅力だと感じました。
一方で、測定して出たスコアを見ても「良い・悪い」が判断しづらいという点はやはり使いにくいところです。Ver.6では「2500」が基準とはいえ、その元となっているCPUはPC用のものであるため、スマホのベンチ測定においては拠り所がありません。この辺りは、いろいろな機種の測定にGeekbenchを利用し、自分の中に知見が溜まることで解決できる可能性もありますね。
公式のスコア共有サイト「Geekbench browser」を見ると「同価格帯の機種と比べてどうなのか」「先代機と比べてどの程度スコアが向上しているのか」といった情報を調べることは出来るので、Geekbenchは他機種とのスコア比較用として使うのが無難な気がします。その機種単体のスペックを把握したい場合には、「AnTuTu」のような別ソフトと上手く使い分ける必要があるように感じました。
なんにせよ、無料で各種デバイスのパフォーマンスを測定できるソフトとしてGeekbenchは非常に有用であることに変わりはありません。今後スマートフォンのレビューを行う際等には、今回の調査で得た見識を活かし、積極的に活用していきたいと思います。
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